科学のラジオRS 第225回【設計寿命5年、まだ11年生きている衛星の話】

設計図に書かれた寿命は、5年。なのに、気づけば11年。誰も欠けていないはずの「予備の燃料タンク」が、打ち上げの瞬間からほとんど手つかずのまま残っていたとしたら――その衛星は、いったい何を節約して生き延びたのでしょうか。

ロケットの精度が「ドンピシャ」だったせいで、衛星が7年分の寿命を持て余している。

目次

なぜ「だいち2号」は、設計図を無視して生き続けているのか?

地球観測衛星「だいち2号」は、2014年に打ち上げられた、いわば宇宙からの見張り番。雲や夜の闇を気にせず地表を撮影できるレーダーを積んで、設計上は5年で任務を終えるはずでした。ところが11年経った今も、現役バリバリで働き続けています。この”長生き”の裏には、打ち上げを担ったロケットの、恐ろしいほど正確な仕事ぶりがあったのです。

そもそも何が起きているの?

衛星は打ち上げられたあと、地上約600kmの決まった軌道に乗せられます。ただし「ここに乗せて」と指定されたコースに寸分違わず入れるロケットなど、そうそうありません。たいていは少しズレるので、衛星自身が積んでいる燃料を使って軌道修正をしながら、帳尻を合わせていきます。この修正用の燃料こそが、衛星の寿命を決める一番の”体力”なのです。

「だいち2号」を運んだH-2Aロケットは、この投入精度がほぼ完璧でした。衛星は上空に浮かぶ「半径500mの見えない土管」のような通り道――中心から外れないよう、自律制御で位置決定精度1m以下という繊細さで飛び続けているのですが――に、最初からすっぽり収まった状態でスタートできたのです。軌道修正にほとんど燃料を使わずに済んだぶん、そのままそっくり”おまけの寿命”に変わりました。

この余った体力のおかげで、「だいち2号」は雲を透過するLバンドレーダーで地殻の変動を数cm単位でとらえ続け、ブラジルのアマゾンでの違法伐採監視(JJ-FAST)など、国境を越えた仕事もこなしてきました。地道な軌道計算の正確さが、長期にわたる地球観測という大きな成果につながっている、という構図です。

ここから先は、この「だいち」シリーズにまつわる、もう少し踏み込んだエピソードです。気になるところだけ、タップして覗いてみてください。

震災の海岸線を撮り続けた「だいち1号」

「だいち2号」の先代にあたる初代「だいち」は2006年に打ち上げられ、設計寿命3年のところを5年間運用されました。そして2011年3月11日、東日本大震災の直後から海岸線や浸水域を連続観測し、復旧支援に力を尽くしたあと、その役目を終えています。「だいち2号」の11年という長寿は、この先代が最後まで走りきった記録の上に積み上げられたものでもあるのです。

雲の下の「海の道路交通情報」

本来、船のID電波(AIS信号)は船と陸の基地局同士でやり取りするものです。ところが「だいち」シリーズは、これを宇宙で直接キャッチし、レーダー画像に重ね合わせるという離れ業をやってのけます。すると、雲に隠れた大洋のど真ん中でも「どの船が、どこに向かっているか」が一目でわかる、いわば宇宙発の道路交通情報が出来上がるのです。

失われた「だいち3号」の夢を継いだ通信速度

光学カメラを積んだ「だいち3号」は、2023年、H3ロケット初号機の打ち上げ失敗により失われてしまいました。しかし、そこで世界初実証されるはずだった超高速通信技術は、後継の「だいち4号」へそのまま受け継がれ、通信速度3.6Gbpsというギネス世界記録認定の数字となって花開いています。一度は途切れかけた挑戦が、次の機体でしっかりバトンをつないだエピソードです。

衛星は「宇宙の路線バス」

通信・電源・姿勢制御などを担う共通の土台部分は、業界では「バス」と呼ばれます。路線バスにいろいろな乗客が乗り込むように、この共通の車体にカメラやレーダーといった観測機器を載せることで、一から設計し直す手間を省き、開発コストを抑えているのです。「だいち」シリーズが世代を重ねられるのも、この”バス”の使い回しの工夫があってこそです。

もっと知りたい方へ

日直のもっと知りたいメモ

地球観測衛星「だいち2号」11年すごいですね。ただ、だいちはこれだけでは終わりません。現在にいたるまでドラマのような歴史をたどります。今度ゆっくりお話ししましょうね。

ロケットの精度ひとつで衛星の寿命が何年分も変わってしまうというのは、地味なようでいて、なんだか胸のすく話でした。次回は「だいち4号」の主役、有川プロジェクトマネージャの奮闘ぶりをもう少し覗いてみようと思います。また次回、宇宙の続きでお会いしましょう。


🚀 宇宙好きなあなたにおすすめ

このエピソードが気に入ったら、宇宙シリーズを一気に聴き・読みできる特集ページもぜひ覗いてみてください。ドライブや作業中のお供にもぴったりです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次