科学のラジオRS 第226回【3号の分まで繋がれた重いバトン、4号の試練】

50kmだった観測の幅が、いきなり4倍の200kmに。数字だけ見れば景気のいい話ですが、その裏で設計チームは、ロケットの仕様変更という”建築基準法が着工直前に変わった”ような事態に見舞われていました。広さを手に入れた代わりに、いったい何と戦うことになったのでしょうか。

耐震基準が、工事の直前になって何倍にも跳ね上がった。

目次

なぜ「だいち4号」の設計は、直前で振り出しに戻ったのか?

先代「だいち2号」の観測幅は50km。「だいち4号」はこれを一気に4倍の200kmへ広げ、2週間で地球全体をくまなく観測できるように仕上げました。ところが計画の途中、H3ロケット1号機の打ち上げ失敗を受けて、静かな環境向けだったはずの設計が、激しい振動に耐える仕様へと直前で変更を迫られます。広さを手に入れる話のはずが、まず「揺れに耐える」という、まったく別の戦いから始めなければならなくなったのです。

そもそも何が起きているの?

観測幅を4倍にするには、まずアンテナそのものを大きくする必要がありました。「だいち4号」はアンテナ幅を3.0mから3.6mへ拡張し、地上へ届く電波を強化。広いエリアから同時に返ってくる4方向分の電波を、混信させずに処理する高性能な回路(作中では「聖徳太子機能」と呼ばれています)も内部に組み込みました。ここまでは、純粋に「広く、賢く」という進化の話です。

ところが、H3ロケット1号機の打ち上げ失敗を受けて、後継機を運ぶロケットには急遽、固体ロケットブースターが追加されることになりました。これは「振動の少ない環境」を前提に組み上げていた衛星にとって、まさに建築中の建物が「震度いくつまで耐えてください」と急に基準を跳ね上げられるようなもの。認定試験をくぐり抜けた職人による手作業のハンダ付けや、過酷な振動試験・熱真空試験を重ねて、この土壇場の仕様変更に応えていきました。

こうして鍛え上げられた「だいち4号」は、地上と直接やり取りできる10分間だけでは送りきれないほどのデータ量を抱えることになります。そこで頼ったのが、3万6千km上空に浮かぶ静止衛星への光通信。地上局の届かない場所でも、この中継役を経由することで、観測から地上への届け方そのものを作り替えることになりました。

ここから先は、この打ち上げと運用にまつわる、もう少し踏み込んだエピソードです。気になるところだけ、タップして覗いてみてください。

新旧衛星をつなぐ「リレーのバトンゾーン」

「だいち2号」と「だいち4号」は、後継機が飛び始めてすぐに先代を退役させるのではなく、一定期間あえて同時に運用されます。同じ場所を新旧両方の衛星で観測し、データの個体差やクセを比較・補正するためです。陸上リレーで次の走者としばらく並走しながらバトンを渡す、あの受け渡し区間と同じ発想です。

4方向の電波をさばく「聖徳太子機能」

観測エリアが4倍に広がったことで、地上から返ってくる電波も4方向から同時に届くようになりました。これを混信させずにさばくのが、4つの信号を並列で同時処理できる高性能な電子回路です。一度に複数の話を聞き分けたという聖徳太子の逸話になぞらえて、現場ではこう呼ばれています。

答えを伏せたままの「マーダーミステリー」訓練

運用開始前のリハーサルでは、教官役が意図的に回線を切ったり、わざと失敗データを発生させたりします。原因は運用チームには一切知らされません。100人体制のチームが、送られてくる断片的な情報だけを頼りに「今、何が起きているのか」を推理して対処する――謎解き形式の実践訓練が繰り返されました。

カメラなしで壊れ方を「推理」する

宇宙空間にある衛星は、当然カメラで直接その様子を見ることができません。何か不具合が起きたときに手がかりになるのは、送られてくる温度やスイッチの状態といった、無機質な数値の羅列だけ。そのわずかな情報から「今どこが、どんな状態で壊れているのか」を推理していく作業は、まさに現場に居合わせない探偵の仕事に近いものです。

もっと知りたい方へ

日直のもっと知りたいメモ

「広さ」を求めた結果、まさかロケットの仕様変更で「頑丈さ」まで一緒に求められることになるとは、開発現場もさぞ大変だったろうなと感じました。次回もまた、宇宙の現場の続きでお会いしましょう。


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