数千億円の超高級車、空から納車!? 7ヶ月かけて届けても、7割はそこで終わる
火星に探査機を送り込む——そう聞くと「宇宙船を飛ばすだけでも大変そう」というイメージがあると思います。でも実は、本当の修羅場は「着陸」の瞬間にありました。今回はそんな火星探査の最前線のお話です。

数千億円かけて作られた、いわば「宇宙の超高級車」。それを地球から打ち上げ、約7ヶ月もの時間をかけて、じわじわと火星まで運んでいきます。道中はほとんどノートラブル、ただひたすら宇宙空間を飛び続けるだけの長い旅です。ところが、目的地の火星に到着したその瞬間——ラスト7分の着陸フェーズで、この超高級車の7割が壊れる、あるいは行方不明になってしまうのです。 7ヶ月かけて丁寧に運んできたのに、最後の7分ですべてが決まる。しかも火星の大気は薄すぎて、地球用のブレーキ(パラシュート)だけでは減速しきれず、着地の瞬間まで気を抜けません。どれだけ長い時間と莫大なお金をかけても、最後の「空からの納車」に失敗すれば、それまでの7ヶ月がすべて水の泡になってしまう——それほどシビアな世界なのです。
そもそも何が起きているの?
NASAの探査車「パーシビアランス」(意味は「忍耐」)は、軽自動車サイズの超高級ラジコンのような存在。火星の空気は地球の100分の1しかなくブレーキがまともに効かないため、着陸は過去に世界が飛ばした50機のうち3分の2が失敗するという、まさに死の難所でした。今回のミッションでは、空飛ぶクレーン「スカイクレーン」からワイヤーで車体をそっと吊り下ろすという神業で、この着陸を成功させています。
そして着陸後も驚きは続きます。パーシビアランスは、なんと火星の大気から酸素を作り出す実験にまで成功しているのです。
この着陸の緊迫感、文章だけではお伝えしきれません。ぜひポッドキャストの音声で、その臨場感ごと味わってみてください。
もっと知りたい方向けの深掘りタイムです。気になるところだけパチパチっと開いて読んでみてください。
① 火星はどれくらい遠いのか?
月までは片道4日、距離にして38万km。一方、火星までは片道約8ヶ月、距離にしておよそ6000万kmもの旅になります。
この長旅は、探査機だけでなく人間にとっても大きな壁です。往復するだけで人間の精神や生殖機能への影響が懸念されており、無重力空間では植物を増やすことすら難しいと言われています。そのため現在は、まず月(アルテミス計画)を中継基地として整備し、そこから火星を目指すロードマップが進められています。
② 「先住生物」を探す、火星のスーモ的内見調査
パーシビアランスの役割は、人類が移住する前の「内見調査」のようなものです。現地に「水回り」にあたる氷が使える状態かどうか、そして「先住生物」にあたる生命の痕跡が存在するかどうかを、丹念に調べて回っています。
いわば、引っ越し先の物件を実際に見に行って、水道が使えるか、変な住人がいないかをチェックしているようなもの。人類が本格的に火星に移り住む未来のための、地道な下見役を担っているのです。
③ 現地調達!火星で酸素を作る「MOXIE」
パーシビアランスに搭載された「MOXIE(モクシー)」という装置は、火星の薄い二酸化炭素の大気から酸素を作り出す実験に見事成功しました。
現時点で作れる量は「ワンちゃんが1日生きられる程度」とまだまだ控えめですが、これは現地調達の酸素で人間が呼吸をしたり、いずれは「火星バーベキュー」が楽しめたりする未来に向けた、非常に大きな一歩と言えます。
④ 砂嵐に負けない「原子力電池」という進化
これまでの探査機の多くは、ソーラーパネルが火星の砂嵐で汚れてしまい、充電できなくなって活動を終えるというケースが少なくありませんでした。
そこでパーシビアランスには、プルトニウムが自然に発する熱を電気に変換する「原子力電池」が搭載されています。これにより、太陽光に頼らず半永久的に火星を動き回ることができるようになりました。
⑤ JAXAの奇策:火星の月から砂を持ち帰る「MMX計画」
実は日本も、2020年代にJAXAが「MMX(火星衛星探査計画)」を進めています。狙っているのは火星本体ではなく、火星の第1衛星「フォボス」。ここにタッチダウンして砂を採取し、2029年に地球へ持ち帰る計画です。
フォボスには、火星から飛び散った砂も長年降り積もっていると考えられています。つまりこの計画がうまくいけば、火星本体に着陸せずとも、世界に先駆けて実質的な「火星の砂のサンプルリターン」を達成できる可能性があるのです。着陸失敗のリスクを避けながら成果を狙う、なんとも日本らしい堅実な奇策と言えるかもしれません。
もっと知りたくなった方へ
今回ご紹介した火星探査の最前線については、JAXAとNASAそれぞれの公式サイトで詳しく知ることができます。興味を持った方はぜひ覗いてみてください。
着陸だけで50機中3分の2が失敗するという厳しい現実の中、人類は諦めることなく挑戦を重ね、酸素づくりや半永久電池といった一歩ずつの技術を積み上げてきました。派手な成功の裏には、こうした地道な試行錯誤があるんですね。
それでは、また次回のホームルームでお会いしましょう。
▼前回の記事
第14回:ベテルギウスの超新星爆発とニュートリノ
▼次回の記事
第16回:民間宇宙開発
